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2014. 11. 03  


吹雪たちが鎮守府に戻ってくると、庁舎の玄関で妙高が待ち構えていた。

「お疲れ様です」

「妙高さん、何かあったんですか?」

「問題は起きていませんが、テレビジョンで官房長官の緊急会見が始まるのでお知らせに来たんです」

車を格納するという大淀を残し、妙高に伴われて提督執務室にはいる。
そこには長門、大和と霧島、そして翔鶴がテレビを注視していた。

「お疲れ様です皆さん」

「お、戻ったか。大淀は何を?」

吹雪に気がついた長門が聞く。

「この作戦を終了させるくらいの物資が貯められていることが確認できました」

「それは頼もしいな。私も末期は…」

「あ、始まりますよ」

長門の言葉を翔鶴が遮ると、画面には初老の官房長官が映る。
彼は感情を殺したような無表情で、深海棲艦の大艦隊が本土に迫りつつ有ること。その到達時刻まであと12時間程度であること。国民の安全保障の観点から、迎撃の要ありと判断し、閣議決定を持って各地の鎮守府に国土防衛を命じたこと。本土到達による人的被害を阻止するため、関東及び東海の各首長に海岸線20キロ圏内の住民の避難指示を命じたことを原稿を読み上げるように発表した。

「まるで人ごとですね…」

霧島はやや落胆したようにつぶやく。

「実感が無いのですよ。先の大戦以降、本土は直接的に兵器などによる被害を受けていません。北朝鮮が弾道ミサイルを放った時でさえ、PAC3や護衛艦による警戒をしましたが、本土に被害が及ぶことは本気で考えてなかったのだと思います」

「つまり70年ぶりの危機に現実感がないのか…」

やや冷めた見かたをする大和に、長門は口元を歪めて深く息を吐く。

テレビの向こう側では記者の質問が始まっていた。

『先日の会見では現在は深海棲艦の拠点への攻勢を進めているとのことでしたが、何故本土へ大艦隊が迫る状態になったのでしょうか。大本営発表のように国民を欺いていたということでしょうか?』

官房長官はそれを即座に否定するが、次々に記者たちから投げられる質問を要約すると、何で自分たちが被害を被らなければいけないのかという点に集約された。

執務室のなかの空気が重くなる。
吹雪は無表情でテレビを見つめていた。が、唐突にテレビのスイッチが切られる。
振り返ると厳しい表情の妙高がリモコンを手にしていた。

「雑音を気にしてはダメです」

「雑音…ですか?」

「戦後70年。この国は不戦を基軸として、世界で稀に見る平和な時代を送ってこれました。その幸運が当たり前であると錯覚している人は多いのです。ですが、私たちはそういう人たちも守るのが使命です」

「それに私たちを応援してくれている人たちも少なくないはずですよ」

妙高の言葉を翔鶴がフォローするがそれでも重い雰囲気が晴れなかった。
使命は頭では理解している。
しかし心のどこかで後方で非難するだけの人々への嫌悪感が拭えなかった。

皆一様に思うことはこの場に提督がいればということだ。
良い意味でも悪い意味でも空気を読まない性格なあの人は、雑音を気にすることなく出撃を命じるだろう。

誰かに必要とされることは人としての存在意義の後押しをする。
提督という存在は無条件に艦娘たちを後押しをしてくれる人だった。
だからこそ艦娘たちは迷うことなく戦いに身を投じられた。
艦娘の居場所は提督が与えてくれていたのだ。

だが、その人は今此処にはいない。
『我々はどこへ行くのか、我々は何者なのか』
そんな基礎の基礎たるものが今の鎮守府には欠けていた。

吹雪はこの雰囲気を打破するために、何かを言わなければならないと感じていた。
だけど何を言えばいい?
彼女自身、存在意義の足元すらおぼつかないというのに。

そんなとき、執務室の扉がノックされた。
扉が開けて大淀が入ってくる。

「…? どうかしたのですか?」

「いえ…テレビが…」

大淀の視線がテレビへと向けられる。
消された画面と重苦しい雰囲気で何が起きているのかを理解した。
だがあえて大淀は口を開く。

「吹雪さん。軍令部によりあなたの艦隊指揮代行が正式に認められました」

「はい。了解しました」

「官房長官の会見でも有ったと思いますが、関東及び東海地方沿岸20キロ圏内の住民に避難指示が出ました」

「20キロか…」

長門がわずかに唸る。
大和の主砲ですら40キロ超の射程がある。
そして、大型深海棲艦は大和級に匹敵するものも確認されている。

可能な限り本土に接近させないことを考慮しているが、それでも20キロ程度は射程に入ってしまうおそれがあるだろう。
しかし今の状況でさえ住民避難は困難を極めていて、これが限界なのかもしれない。

「それと呉鎮守府、佐世保鎮守府から援護艦隊を派遣すると通達が着ました」

「増援はありがたいですが、距離を考えるとあてにはできませんね…」

双方の鎮守府から増援が届くには20時間程度要する。
その頃には深海棲艦の艦隊との戦いは集結している可能性は高い。
それがどちらの勝利であるにせよ。

「それと」

大淀は一通の封書を吹雪に差し出す。

「これは?」

「電文です。直筆のものは後ほど届けるとのことです」

吹雪は無地の封書を受け取ると、開封して文面に目を通す。
そしてそこに書いてある内容を理解すると、つぅと眼から溢れ落ちたものが頬を伝って床にこぼれた。

「吹雪、どうした?」

「その手紙に何か?」

ただならぬ雰囲気に吹雪のもとに皆んなが集まってくる。
吹雪はこみ上げてくる感情を抑えられず、答えられないまま封書を長門たちに手渡す。
長門を始め、その場にいた艦娘たちは次々にそれを読み、吹雪同様にこみ上げるものを抑えようと押し黙る。
少し落ち着いた吹雪は封書を大淀に差し出した。

「大淀さん。これを皆んなが聞こえるように放送してもらえますか」

大淀は「ええ」と微笑みながらそれを請け負った。

10分ほどした後、鎮守府全体に向けて放送が発信された。
誰もが出撃準備に負われていたが、その放送が流れだすと誰もが手を止めてスピーカーへと耳を傾けた。
そしてその放送が終わると、喧騒にあふれていた鎮守府が静寂に包まれる。

「なあ龍田、こっちの方向でいいんだっけ?」

天龍が目元を拭うとそばにいた龍田に問う。

「そうねえ。三笠の艦首が向いてる方向だから、そっちでいいと思うわ」

「そうか」

天龍は両手両足をピタリと揃え、気をつけの体勢のままゆっくりと頭を下げた。
龍田も天龍の意図を理解すると、その横に立って同じように頭を下げる。

このとき、鎮守府の各場所において同じような光景が見られた。
もはや自らの存在意義に迷いを覚える艦娘は誰もいなかった。
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