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2014. 10. 24  


「司令官。秘書艦吹雪、司令官代理として敵艦隊防衛の艦隊指揮を執ることを拝命いたします」

無線室へと戻った吹雪は通信機の向こうにいる提督に向けてそう宣言した。

『うん、よろしく頼むよ。一応聞いておくけど、戦艦組はこの指示に異議はない?』

「提督、長門だ。この場には比叡と霧島はいないが、前もって同意を得ている。この場にいる戦艦も皆同意している」

「空母連中には鳳翔さんを通じて私らの意思は伝えてるよ」

水上機ではあるが航空機を運用する誼で、伊勢は鳳翔と意思疎通を取っていた。
鳳翔はその艦歴のみならず艦娘としての人柄もあって、正規空母、軽空母の双方のとりまとめ役となっている。

『まあ鳳翔が納得しているなら空母たちも異議は挟まないだろうな』

「巡洋艦や駆逐艦、潜水艦の娘達には命令という形を取っていただくのが一番良いと思います」

「そうね。変に私たちが言うよりは提督が言ったほうが良いでしょうね」

大和と陸奥の具申に通信機の向こうの提督は頷く。

『わかった。大淀、すまないけど全員を講堂にでも集めてくれるかな』

「はい。お待ちください」

AL/MI作戦へと参加しなかった艦娘たちは、ほとんどが海上交通網の保持を目的とした遠征要員としての任務についていた。
途切れなく遠征が行われるようにローテーション制が取られていたが、今日は当番の艦娘には待機の指示が出され、出撃していた遠征部隊も途中で中止を命じられたりと、居残った艦娘はすべてが鎮守府へ帰還していた。
大規模作戦中ということもあって私的な外出なども禁じられており、遠征当番で指示待ちのために待機している艦娘を除いた艦娘たちは自室に篭ったり、自主的な訓練や座学など行っている。

彼女らにはまだ本土へと深海棲艦の大艦隊が迫っていることは知らされていないが、遠征が留められていることなどから、何かしら起こっているのではないかという憶測が広まっていた。

こういう状況であれば真っ先に探りを入れそうなのが鎮守府の突撃レポーターとして自他共に認められている青葉であるが、好奇心と行動力を兼ね備えた彼女は遠くAL海域に出撃していて、鎮守府に残る艦娘では情報収集はままならないのだった。

鎮守府には漠然とした言い表せない気持ちが充満しつつあった。

『鎮守府内の全艦娘は当番業務にある者も含め、至急講堂に集合してください。繰り返し…』

そこに講堂への集合指示が下った。

「急に講堂に集まれとか、まったく一体何起きてるのさ」

「司令官に何かあったんでしょうか…?」

敷波と綾波が言葉を交わしながら講堂へとつくと、すでに多くの艦娘たちが集まっていた。

「綾波さん、敷波さん、こっちです」

駆逐艦たちの列の方から磯波がふたりに手招きする。

「あれ? 吹雪はどうしたんだよ」

吹雪型はAL作戦に4隻が参加し、鎮守府に残っているのは吹雪と磯波だけだ。
吹雪は秘書艦という役割のときは列ではなく壇上の脇で控えているが、その場所には大淀の姿があった。

「列には来てないみたいです。壇上にいるんでしょうか…?」

「大淀さんがいるのに?」

「何か理由があるんでしょう。二人とも並びましょう」

綾波に促されて首を傾げながらも整列に加わった。
やがて全員が集合したのか、講堂の窓は厚いカーテンが引かれて薄暗くなる。

「全艦、気をつけ!」

壇上の大淀が号令を発すると、集まっていた艦娘たちが一斉に姿勢を正す。

「これより提督よりお話があります。敬礼!」

艦娘たちが壇上へと頭を下げる。
ブツリという音と主に壇上のスクリーンに提督の姿が映し出された。

「休め!」

『やあ、皆んな』

スクリーン越しとはいえ、久々に提督の姿を見た艦娘たちから喜色の声が上がる。
しかし、大淀が咳払いしてみせると、その声も潮が引くように無くなった。

『まず報告からなんだけど、聯合艦隊はMI作戦に勝利したよ。AL方面の別働隊も無事作戦を終了させたようね』

「両方の作戦に勝ったって報告のために集められたのかクマ?」

「それにしては大掛かりにゃあ」

『ここからが本題。今から6時間前、硫黄島付近の海域で大型深海棲艦10前後を含むの150隻の大艦隊が北上しているとの報告が上がったの』

講堂内にどよめきが起こる。


『分析の結果、敵大艦隊の目標は本土への攻撃にあると判断された。敵艦隊の航行速度は約30ノット。あと14時間で本土に到達するとの予測だよ』

「あの…もしかして、提督が帰ってくるのは間に合わないんじゃ…」

名取が思わず口にした言葉の意味を全員が理解した。
すなわち、現在の危機的状況において指揮官が不在だということに。

『分かる子にはわかると思うけど。MI海域から横須賀までは約4000キロ。龍神丸の最高速度でも約50時間かかるの。皆んなも知っての通り深海棲艦に妨害されるから、今後は通信もままならなくなると思うから、こちらからみんなを指揮することはできない』

「どうするの提督? 私たちはどうすればいいの?」

こちらからは提督の側には音声は送っていない。
それでも足柄の上げた声は、その場にいる艦娘たち全員の気持ちを代弁していた。
スクリーンの中の提督はかすかに笑みをが浮かんでいた口元を閉じ、表情を引き締める。

『狼狽えるな!』

提督の喝に講堂が水を打ったように静まり返る。

『残念だが私は鎮守府に辿りつけない。かと言って手をこまねいて深海棲艦の本土襲撃を見過ごしていいものか? いや断じてそんなことを許してはなるものか!
 ならばどうするか。皆んなにはすでに武器は与えた。深海棲艦を打ち倒すことのできる妖精の装備を皆んなは持っているな。ではあとはどうすればいい?』
 
「お前(提督)がいないじゃないか…」

木曾が苦虫を潰したような表情でつぶやく。
艦娘は軍属であるがために戦いにおいては命令、指示で動く。
戦闘自体は艦娘に委ねられているが、進軍や撤退などの指揮はすべてが提督に委ねられていた。

『わかっている者もいると思うが、指揮官が必要だね。ではこれも用意しよう』

再び講堂にどよめきが沸き起こる。

「他所の艦隊から司令官を呼ぶということでしょうか…」

朝潮はそう小さく呟きながら表情を曇らせる。
彼女としては軍ではなく、提督に仕えているという意識が強い。
別の提督が指揮をすれば確かに艦隊は動かすことができる。
しかし、よく知りもしない人物とは生死をかけた戦いに出たくはないというのが本音だ。

『大丈夫。指揮官は皆んなもよく知っている娘だよ。吹雪』

「はい」

提督の呼びかけに壇上の袖に控えていた吹雪は講壇へと歩みを進める。
その後ろには長門と翔鶴が影のように付き従っていた。
講堂内のどよめきが大きくなる。

『吹雪を艦隊司令代理に任命した。以後は吹雪の指示を私の指示だと思って行動して欲しい』

長門と翔鶴がスッと前に出る。

「戦艦長門だ。戦艦組は提督の指示により吹雪の指揮下に入ることを了解した」

「正規空母翔鶴です。正規空母、軽空母は提督の指示に従い、吹雪さんの指揮下に入ります」

「艦隊司令代理の受け入れは戦艦、空母の総意だ。異議のあるものはこの場にて発言するがいい」

誰も発言するものはなかった。
上位艦の支持表明もあってか、少なくとも表面上は反抗するものはなかった。

長門に促されて、吹雪が講壇に立つ。

「吹雪です。深海棲艦の本土襲撃に際して、艦隊司令代理として指揮をとることを司令官から任ぜられました。駆逐艦の私がこのような役職を与えられることに思うことがある人もいると思います。
 この艦隊は私たちの家です」

「吹雪…何を言うつもりなんだよ」

「敷波ちゃん。聞きましょう」

「ああ、うん。そうだけどさ…」

敷波の困惑表情に、綾波は人指し指を唇に当てる。

「今、私たちの家は危機にあります。これまで家を支えてくれていた司令官は遠方にいいてこの危機に何をすることもできません。この危機から家を守れるのは誰でもなく、私たちしかいません。
 私はこの家を守りたいです。司令官がいて、皆んなと暮らしてきたこの艦隊を守りたいんです。だから皆の力を貸してください!」

吹雪は全員を前に頭を下げる。
講堂内は静まり返っていた。

「家か…家ねえ…」

「天龍ちゃん?」

怪訝そうな表情で龍田が天龍の顔を覗きこむ。
そんな龍田に天龍は不敵な笑みを浮かべた。

「任せろよ! この艦隊はオレたちが守ってみせるぜ!」

「軽巡に先を越されるとはな…我輩たちも異議はない。この力、存分に使うが良い」

「潜水艦だって活躍してみせるわ!」

天龍の宣言を筆頭にして次々に艦娘たちから賛同の声が上がる。
長門はその様子を眺めると、隣の翔鶴と視線を交わして大きく頷く。
全員に受け入れられたことに安堵して胸をおろした吹雪の背中を激励するように叩く。

「やっぱりここは皆んなの家なのよね」

陸奥は一人、活気が出てきた講堂を目を細めて眺めていた。

『えっと…そっちの様子はよくわからないんだけどさ。とりあえず大丈夫なのかね?』

すっかり忘れ去られていた提督がスクリーンの中で頬を掻いていた。

『私の持つ全権限を吹雪に委任する。全艦はこの通信以降はすべて吹雪の指示に従うように。今後私に指示を仰いでも取り合うことは一切しない』

提督の言葉に全員が頷く。
船頭多くして船山登るという言葉があるように、指示系統が複数あることは百害あって一利もない。

スクリーンの中の提督はまるで壇上で全員を見渡しているかのようにした。

『我がとーこ艦隊は本土へと迫る敵深海棲艦艦隊に対して防衛作戦を展開する。
 これが本作戦において私から出す最後の命令である。
 
 諸君らには敵を打ち砕く武器がある。諸君らには海を駆け抜ける脚がある。
 それらはなんのためにあるのか。
 
 その力の全ては諸君らの銃後に控える市民を守る力である。
 我ら艦娘は護民・護国のための剣であり盾である。
 それが我らの使命であり、矜持である。
 
 だから私は諸君らに命じよう。
 民を守れ! 国を守れ! 同胞を守れ!
 そしてなにより艦娘としての使命と矜持を守れ!
 人類の尊厳と強さというものを深海棲艦どもにみせつけてやれ!
 
 そしてこれはお願いだ。
 諸君。またこの鎮守府で逢おう!』

通信の終了とともにスクリーンの中の提督の姿が消える。
だが講堂の艦娘たちはずっとスクリーン見続けていた。
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