2014. 10. 22  
鎮守府の一番長い日(My Sweet Sweet Home) 



『これより、吹雪を艦隊司令代理とし、本土防衛戦における指揮官に命ずる』

無線機からの提督の言葉に通信室は静寂に包まれた。
 
吹雪は我に返り、その言葉の意味することに気がつく。
思わず周囲の人々を見回すと少し困惑の混じった視線が自分に注がれていることに気がついた。

秘書艦として提督の傍で仕えてはいるものの吹雪は駆逐艦だ。
かつての軍制においては駆逐艦は潜水艦ともども軍艦とはされてこなかった。

AL作戦やMI作戦で多くの戦艦・空母が不在だとはいえ、長門や大和など聯合艦隊旗艦の経験をもつ艦娘もまだ残っている。
それなのに何故、自分が指名されたのか。

「ふむ…」

長門は混乱した様子を隠せない吹雪を見てため息混じりの息をつく。
そして無線機に向かって言い放った。

「提督、10分ほど時間をくれ。吹雪と話をする」

『ああ、任せる』

「吹雪。少し外に出よう」

「え? あ、はい」

「陸奥、大和も来てくれ」

「わかりました」

「しょうがないわねえ」

無線室には大淀と詰めかけていた伊勢、日向が残される。

「大丈夫でしょうか?」

「本人が気がつくのが一番なんだけどね」

「仕方あるまい。自分の立ち位置を正確に把握している方が稀だよ」

吹雪を連れた3人の戦艦は自販機の並んだ休憩スペースへと来た。
長門は自販機に投入すると吹雪に声をかける。

「何を飲む?」

「そんな…」

「遠慮するな。まず落ち着くことが先決だ」

「…お茶でお願いします。冷たいのを」

「わかった。お前たちはどうする?」

「温かい緑茶をお願いします」

「私はスポーツドリンクみたいのでいいわ」

それぞれに飲み物が行き渡ると、そばに設置されたベンチへと全員で腰掛ける。

「さて、何故連れ出したかわかるか?」

「…私には司令官の代わりが務まらないから、ですか?」

長門は少し眉間にしわを寄せると、深くため息をつく。

「違うわよ吹雪。私も長門も、それに大和も。提督のかわりを務めるのは貴女しかいないと思ってるわ」

「そんな! 何でですか!? 私、駆逐艦ですよ!?」

「確かにお前は駆逐艦だ。だが提督の秘書艦だろう?」

「それがなんの関係があるんですか?」

「吹雪さん。提督がなんの意味もなく貴女に秘書艦を務めさせていたと思うの?」

「え?」

「提督はな。お前を弟子だと思っているんだよ」

「弟子…ですか?」

「かつて提督が艦隊へと着任後、半年が経過するまで鎮守府にはいなかった事があったそうだな」

「はい。元にいた陸軍部隊から離籍するのに時間がかかったからだと聞いてます」

「その間、艦隊は無稼働状態だったわけだ」

「はい。司令官の指示なくては艦隊の運営ができませんから」

「まさに今の状態がそれだろう?」

「……」

「過去の経験を踏まえて、提督は自分が不在の時であっても指示系統を残せないかと考えていた」

長門は吹雪の顔を正面に見据える。

「提督はな。吹雪、お前を指揮官に仕立てようと考えていたのだ。自分が不在の時のな」

「でも私…長門さんや大和さんみたいに強くないです」

「強さは関係はない。提督はお前を選んだ。それが全てだ」

吹雪は両手で持った紙コップから視線を上げることができない。
やはり、何で自分なのかという思いが強い。

確かに秘書艦として吹雪は提督の着任の頃からともにあり、多くの戦いを経験してきた。
練度についても艦隊でも最上位付近にある。
だがそれは提督あってのことだ。

これまでは常に提督が路を示してきた。
厳しい時もあったが、吹雪は懸命にその路をたどってきた。

執務にあまり熱心ではない提督を自分が支えなければならないだと常々思っていた。
しかし支えられていたのは艦娘たちであり、自分だったのだ。

「私…無理です。何をすればいいのかもわからないんです…もう、許して下さい…」

紙コップが地面に落ちる。
吹雪はこみ上げてくるものに耐え切れず両手で顔を覆った。

ふと吹雪の体が抱きしめられる。

「長門も大和も吹雪を追い詰めすぎよ」

「う…しかしだな…」

「いい? 吹雪、世の中はもっとシンプルよ」

吹雪が顔をあげると、少しいたずらな笑みを浮かべた陸奥が吹雪を抱きしめていた。

「この艦隊は好き?」

「え?」

「私たちの提督が率いる、この艦隊は好き?」

「…はい」

「あなたも知ってると思うけど、私は提督に拾われたの」

陸奥はかつて大湊警備府に居た。
大湊で所属するはずだった艦隊は陸奥の建造中に北方海域で全滅し、
彼女が着任した時にはすでに艦隊は解隊されていた。

所属が宙ぶらりんのまま大湊で海を眺めるだけに生きていた陸奥は、
北方海域の攻略拠点となる大湊に視察に来た提督によって
半ば強引にこの艦隊に引き取られた。

その視察には吹雪も同行しており、
陸奥が引き取られた際のやりとりは吹雪も知っている。

「はじめはヒドい人だと思ったわ。でもこの艦隊で過ごすうちに、だんだんそんな思いも無くなっていったの。ここは居心地が良くて…長門も来てくれたしね」

「なんだかくすぐったい事を言うなお前」

少し頬を染めてそっぽを向く長門に、陸奥は微笑み返す。

「ねえ吹雪、この艦隊は私たちの家よね?」

「家…?」

「そう。この家に住む私たちは容姿が似ているわけでもないし、血も繋がっているわけでもないけど。家族のようなものだと思わない?」

「家族…ですか…」

「吹雪。あなたはこの家の留守番を任されたの。そして今はこの家の危機よ。家長の提督は今は遠くにあってこの危機をどうすることもできない。だから留守を任せたあなたに頼んだのよ。家を守れ。家族を守れってね」

「家と家族…」

「あなただけじゃこの危機は手に余るかもしれない。でも私たちもいるわ。家族だもの」

「……」

「だから一緒にこの家を守りましょう。提督がここに帰ってこられるように」

「私…守りたいです。この場所をこの家を」

「じゃあ、提督はあなたに留守を任せたんだから、あなたが率先して動かないとね。あなたはこの家で一番のお姉さんなんだし」

「できるでしょうか?」

「私たちが協力しますよ。この家の妹として、ね」

大和はそう言って吹雪に微笑みかける。
長門は不敵な笑みを浮かべて大きく頷く。
陸奥は吹雪の手を引いて立ち上がらせてウィンクしてみせた。

吹雪は立ち上がると三人の前に立つ。
その顔にはもう迷いの色はなかった。

「陸奥さん。長門さん。大和さん。どうかよろしくお願いします!」

「戦艦長門、承知した。全身全霊をもって応えよう!」

「戦艦陸奥、同じくよ!」

「戦艦大和、推して参ります!」

吹雪は全員に向かってうなづくと、無線室に戻るべく歩み始めた。
これがすべての始まり。
NEXT Entry
本土防衛戦 vol.2
NEW Topics
生きてます。
ちんじふ劇場【5月まとめ】
活動休止してます
明日ですが、C88の情報
歩いて帰ろう
長門と花火大会
Comment
Trackback
Comment form
 管理者にだけ表示を許可する
カレンダー
これまでの読者
ブログ内検索
アクセス解析