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2014. 08. 07  
◇鎮守府劇場(第9469話)
「前に進むということ」


ある夜の提督執務室。

とーこ(提督)「加賀の様子がおかしい?」

日向「ああ」

とーこ「どうおかしいっての?」

日向「ん。難しい質問だな」

とーこ「はあ?」

日向「端から見ると、普段との違いは無い。が、よく見てみると何か違和感を感じるんだよ」

とーこ「ほう?」

日向「例えるなら…そうだな。鳳翔がジャガイモをフライドポテトで出してくるような感じかな」

とーこ「???」

吹雪(秘書艦)「鳳翔さんならジャガイモは肉じゃがとかにしそうですよね」

とーこ「わかるような、わからんような…」

日向「赤城は大丈夫だというが、一応提督の耳に入れておこうと思ってな。吹雪、お茶をありがとう」

伊勢「え? もう行っちゃうの?」

日向「遊びに来てるわけじゃないだろ」

伊勢「勤務時間外なんだからいいじゃん」

とーこ「勤務中なんだけどな。私は」

伊勢「え?そうなの? じゃあ邪魔しちゃ悪いか~」

とーこ「私、怒っていいのかな?」

日向「すまない。気を利かせたつもりだったんだが、むしろ心配事を増やしてしまったか…」

とーこ「いや。細かいことを見れてるわけではないからね。そういう報告はありがたいよほんと」

伊勢「あんまり褒めると細かいこといっぱい言ってくるよ?」

日向「伊勢が大雑把すぎるだけだよ」

とーこ「ま、そこら辺は適宜判断して報告してくれ。日向も伊勢もありがとうな」

日向「ん。では失礼する」

伊勢「またね。吹雪もお疲れちゃん」

吹雪「お疲れ様でした」

執務室から伊勢と日向が退室しました。

とーこ「さてと。吹雪、今日はこれくらいにしておこうか」

吹雪「残りの分は明日に回すんですね」

とーこ「明日でも平気だよね…?」

吹雪「大丈夫です。それに司令官は加賀さんが気になるんでしょ?」

とーこ「うん。まあ、ああいうこと聞くとね」

吹雪「最終退室はやっておきますから、どうぞ行って下さい」

とーこ「すまない。助かるよ」

吹雪「お疲れ様でした」

提督が執務室から退室しました。

吹雪「……」

一人残された吹雪は、つうと執務室の机を撫でる。
そして大きく息を吐きだすと、テキパキと片付けを始めた。



とーこ「大淀の話じゃ、道場の使用願いが出てるって話だったな…」

艦載機の初艦に弓を使用する空母たちには
弓道場のような訓練設備が用意されている。

内実も弓道場そのもので、艦娘たちはそこで弓の腕を磨いている。

艦娘は艦固有の能力が戦力の主体となるが
練度を積み上げていくことでカタログスペックを逆転するものも少なくない。

空母たちが弓の腕を磨くのも
弓の腕が空母としての能力に直結するより他ならない。
身体能力を伸ばすことが艦娘としての練度にも繋がるのだ。

目指す弓道場の扉が開き、蒼龍と飛龍が姿を表した。

蒼龍「あ、提督。お疲れ様です」

とーこ「2人は上がり?」

飛龍「今日はなんとか目標に達することができたので」

とーこ「また7割命中とかやってんの」

蒼龍「はぁ…7割ならもう少し早かったです」

飛龍「ここ最近は8割以上を目標値に設定されてるので大変なんですよ」

とーこ「……目標値の設定は加賀がやってるのか?」

蒼龍「いえ、赤城さんです」

飛龍「どうして加賀さんだと?」

とーこ「加賀の様子がおかしいって話を聞いてね」

蒼龍「……」
飛龍「……」

とーこ「何よ?」

蒼龍「おやすみなさい提督」

飛龍「私たちこれで失礼しますね」

そそくさと退散する蒼龍と飛龍。

とーこ「何だかなあもう…」

提督は2人を見送ると弓道場に入った。

加賀「遅い!」

とーこ「!?」

弓道場に入った途端に加賀の鋭い怒声が響き渡る。
視線を向けると加賀が翔鶴の横に立って指導している姿が見えた。

赤城「あら提督? 珍しいところへいらっしゃいましたね」

そう言われてみれば弓道場へはあまり来たことがない気がする。
赤城は床で仰向けになっている瑞鶴を団扇で仰いでいた。

赤城「どうかなさいましたか?」

加賀「まだ遅い!」

再び加賀の声が響く。

とーこ「……いや、なんというか…特訓中?」

赤城「ああ、あれですか。翔鶴を指導してるんですよ」

翔鶴が不意に身体を崩したところを加賀が受け止める。
何か言葉を交わした後に翔鶴の体を道場へと横たえさせた。

とーこ「あのさ…いじめとかシゴキじゃないよな?」

赤城「そう思われますか?」

とーこ「加賀の様子がおかしいという話を聞いてさ、ちょっと気になった」

加賀「私が何か?」

と、翔鶴を抱えた加賀がやってきた。
瑞鶴と並べるように翔鶴の身体を床に横たえる。

とーこ「お前の様子がおかしいという報告が来た」

加賀「……」

赤城「加賀。翔鶴も瑞鶴も限界のようだし、
  私たちも提督に話さねばならないようだし、
  今日は終わりにしましょうか」

瑞鶴「…まだ。まだやれます」

床に横たわっていた瑞鶴が身を起こして言う。
立ち上がろうとする瑞鶴を加賀が押しとどめる。

加賀「止めておきなさい。まだ時間はあるから、今日はもうお仕舞いにしましょう」

瑞鶴「でも、私。全然出来てない!」

瑞鶴の双眸からは玉のような涙が床に落ちる。

加賀「そんなボロボロの身体で今日出来たとして、明日戦えると思うの?」

瑞鶴「でも! でも…」

加賀は瑞鶴の体を優しく抱きしめる。

加賀「大丈夫、明日また頑張りましょう。だから今日はもう休みなさい」

しゃくりあげるような瑞鶴の声がだんだんと小さくなってゆき、やがて寝息へと変わっていった。

赤城「なんとか眠ったみたいですね」

とーこ「すまん。何が何だか分からない。どゆことよ?」

加賀「すみません。このあとお時間ありますか?」

とーこ「うん」

加賀「では鳳翔さんのお店で待っていていただけますか。
  五航戦の娘達を部屋に寝かしつけてから私たちも参ります」

とーこ「わかったよ。あんまり遅いと酔ってるぞ私たぶん」

赤城「私たちも夕食を頂いてませんから、すぐに行きます」

加賀「提督、申し訳ありませんが道場の施錠をお願いできますか」

とーこ「あいあいよ」

弓道場の鍵を受け取る。

加賀が翔鶴、赤城が瑞鶴を負い弓道場から出て行った。

残された提督は弓道場の最終退室チャックなどを行って
表のチェック項目を埋めてから弓道場を閉める。

道場から出ると汐風まじり湿気のこもった風が吹き抜けていく。
空を見上げれば雲ひとつない空にレモン型の月が浮かんでいた。

ズボンのポケットを探る。
いつ仕舞ったのかわからないヨレヨレのタバコが1本出てきた。
口に咥えてからライターを探すが見当たらない。

小さく舌打ちすると、月下の道を歩き出した。



<鳳翔の店>

店内に有線放送かなんかの演歌がしみじみと響き渡る。

とーこ「(昭和の居酒屋かここわ…)」

といいつつ、
タバコ片手にカップの酒をあおるのが非常に心地よい。
どこもかしこも禁煙厨がまかり通る世の中で、
さすがに鳳翔はわかっているなと感心してしまう。

酒と煙草は人生の潤滑油だ。
それを無くそうとするなんぞは狂人の沙汰でしかない。
まあそれほど頻繁にタバコを吸うわけでもないけどさ。

先付けに出された小鉢の中身が無くなり、
次の肴を何にしようかとお品書きをくるくると見ていると声がかかった。

赤城「お待たせしました」
加賀「遅くなりましてすみません」

弓道場のときより若干ゆったりとした着物に着替えた2人がそこに居た。
肌が紅潮し、ほんのり湯気が漂っているのがわかる。

とーこ「お前たち、風呂上がりかよ…」

赤城「ホントは翔鶴と瑞鶴を寝かしつけたらすぐ来るつもりだったんですけど…」

加賀「仮にも女ですので、汗を落とさずに来ることなどできません」

とーこ「私はまだ風呂にも入ってないんだが?」

加賀「…提督も女性でしたね。申し訳ありません」

とーこ「おちょくられてるのか? おちょくられてるんだよな?」

赤城「加賀は本気だと思いますよ」

とーこ「なお悪いわ!」

提督が落ち着くまで10分かかりました。

とーこ「で、お前らがおかしいのは見てて分かった。何があった?」

加賀「何もありません」

赤城「さすがにそれは苦しいかと…」

加賀「…提督に言うべきことは、何もありません」

とーこ「このやろう…」

赤城「ストップ! 気持ちのすれ違いは慢心の元です!」

加賀「……」

赤城「あのね加賀。そんな態度だと提督に嫌われますよ? 
  提督も加賀の言葉を額面通りとらないでください。
  こういう言い方しかできない子なんですから」

加賀「…提督、申し訳ありませんでした」

加賀がスッと提督に向かって頭を下げる。

とーこ「ああ、うん大丈夫。私もカッとなってすまなかったよ」

赤城「なんでこうウチは不器用なのばかりなんですかねえ」

とーこ「お前が器用なのは分かったから、飯食いながら話すな」

赤城「話が進まないからお腹空いたんですよ。ごちそうさまでした」

丼3杯で赤城の食事が終わった。

赤城「さて、加賀の様子がおかしい件ですが」

加賀「……」

赤城「加賀は五航戦の能力を上げようとしてるんですよ」

とーこ「ふあ?」

赤城「翔鶴、瑞鶴はカタログスペック上では私たちより優秀なのはご存じですよね?」

とーこ「そうか? お前たちのほうが強いだろ実際」

赤城「艦娘は自身の練度が加わりますから。
  練度にかけては一航戦の誇りにかけて引きませんよ。私たちも」

加賀「私たちはあの娘達に負けるつもりはありません。
  ですが私たちは能力の天井が見えている状態です。
  あの娘達が相応の練度を身につければ、
  もっと高みを目指すことが出来るんです」

とーこ「なるほど」

元々は別艦種から空母になった赤城、加賀は
空母そのものの性能は高いものではない。

だが2人が空母群の頂点にあるのは
尋常ならざる練度の高さを持つが故だ。

その練度の高さの根底は「不自由」にあると
提督は考えている。

人は必要な物を求める生き物だ。

手に入れるのが難しいものを手に入れたいのであれば
他人よりも努力をするしか無い。

それを極めたのが、
赤城、加賀という2人の正規空母たちだ。

赤城はともかく。
加賀が五航戦姉妹に苛立ちを感じていたことはわかっている。

艦としての性能の高さでスタートラインの位置は異なる。
明らかに到達点より手前から走り始めている五航戦姉妹が
己の立ち位置まで未だに来ないことが、
あの2人へのあたりが強いことの原因なのだろうと考えていた。

とーこ「(でもさっきの様子は違ったな…)」

翔鶴はともかく、
瑞鶴は加賀に強い反発心を抱いていているというのが提督の印象だった。

しかし先ほど見えたのは瑞鶴の加賀への信頼感であり、
加賀の瑞鶴への思いやりだった。

赤城「提督が不思議に思うのは無理もないですよ。
  実際、加賀と瑞鶴の相性はつい先日までは一触即発みたいなものでしたし」

とーこ「だよねえ…何があったのさ?」

口を開こうとする赤城を加賀が制した。

加賀「私の気持ちを二人に伝えました」

とーこ「え? それだけ?」

加賀「次の大規模作戦がMIのコードネームで呼ばれていることを先日知りました。
  その符号が示していることは、誰にでもわかります」

赤城「私たちが沈んだ戦いですね」

とーこ「……」

加賀「私はそれが厳しい戦いになることを理解しています。
 私たちや二航戦の2人を一挙に喪失した戦い。
 赤城さんや私、蒼龍、飛龍だけではまた勝てないのかもしれません。
 勝機があるとすれば翔鶴、瑞鶴を投入可能であることでしょう。
 だから二人に私の気持ちを伝えました。
 『どうか私たちに力を貸してほしい』と」

沈黙が支配する中、
優先のかすれたような演歌の歌声だけが響き渡る。

赤城「ま、私がフォローはしましたけどね。
  散々当たり散らされた相手からそんなこと言われたって聞くわけ無いですし。
  今までのことを加賀に謝罪させた上でのことです」

とーこ「なんか色々台無しだなお前」

加賀「私が頭を下げることで済むならいくらでも」

とーこ「そうか…なんというか、
 加賀はもうちょっとプライドに凝り固まった感じだったと思ってたんだけどな。
 いや、良い意味で変わったって言ってんだぞ?」

加賀「(変えたのは…)」

赤城「翔鶴も瑞鶴も加賀の言葉にやる気を出してくれまして、
  練度を上げるべく特訓中ってところなんです」

とーこ「なるほど分かった。しかし何だか嬉しいというか、安心したというか」

赤城「どういうことです」

とーこ「いやね。MI作戦の話を聞いた時に、
  お前らのトラウマほじくり返すようで、どうしたもんかと思ってたわけ。
  でもお前たちがその一歩も二歩も先に行っててくれたことがさ
  おねーさん嬉しいのだよ」

加賀「どういう因果であるのか知りませんが、
  私たちは艦娘という生命を得て此処に居ます。
  生きている限りは前に進むことが出来るのだと思うのです」

赤城「そうですね。生きている限りはあらゆる可能性を持っていますものね」

とーこ「お前らが戦艦や巡洋艦になる未来はないと思うぞ?」

加賀「(ため息)」

とーこ「なんか呆れられた!?」

赤城「そういう茶化すところは提督の短所だと思います」

とーこ「え~~~~!?」




鳳翔の店から出て提督と別れた赤城と加賀は
自分たちの部屋へと月夜の下を歩く。

赤城「よかったですね。提督が喜んでくれて」

加賀「ただ、私たちが雪辱を晴らそうと意気込んでると思われてないでしょうか」

赤城「ああ、それはありますねえ」

加賀「言うべきだったのでしょうか?」

赤城「それはちょっと勘弁ですね。加賀は言えます?」

加賀「……(顔真っ赤)」

赤城「ですよねえ…私にも無理です」

加賀「でもいつかは…」

月だけが二人の想いを知っていた。



おまけ

伊勢「なんで提督にあんな事言いに行ったのさ」

日向「努力している奴は報われるべきだ。違うか?」

伊勢「私たちの努力も報われるのかなあ?」

日向「だといいな」
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